missing fours "SAO365"

SAO365の記録

平成27年6月21日(日)

missing fours "SAO365"

 

~9日目~ ソードアート・オンライン(9) P.248~255

 

今日はそこまで悪くないかもしれない。

デスクトップ画面右下に表示されている日時を確認してそう思った。

 

午前十一時半に目が覚めて、昼飯を食って、午後十二時半が過ぎた。

 

カードをシャッフルして、めくる。

2,4,8。

P.248

 

アリスを捜すもうひとつの旅が始まる。

 

文章のリズムが変わった。

俺の根底にある文章と比べてかなり近い。

それも当然である。

「読書」として目に焼き付けたアリシゼーションが、今の俺の文章を支えているのだから。

 

「臨書」を行うことで、さらに明確に、精緻に、綿密に自身に刷り込んでゆく。

 

 

ルビ振りの原則を無視してでも読者にとって読み易いようにしている。

あまりにも時間が掛かりすぎるという理由で、俺の臨書ではルビ振りまではしていない、けれど解る。

 

 

人間堕ちした獣ほど醜く憐れなモノもあるまい。

扉を隔てた一室から、『二匹の汚獣』の喚き散らす唸りが聴こえる。

俺は異世界と実世界を隔てる自室の壁に水平蹴りを叩きつける。

 

ドォン。

 

黙れ。

雄弁さを内包しつつも、簡素で破壊的な打音。

殺すぞ。

殺気も混ぜたせいだろうか。祝日の昼にはおおよそ相応しくない静寂がしばし訪れるも……、奴らはまた喚き出す。

 

さっさとデビューして、仕事部屋を借りて(経費として9割は削減できるらしいし)一人暮らしの環境を手に入れたい。

 

最悪の気分になった。

 

 

はじめて刃を振った。

右上段斜め斬り一閃。

小太刀を戻す。

左上段斜め斬り一閃。

小太刀をやや上方へと戻し、横一文字に一閃。

最後に振りかぶり、縦一文字に一閃。

 

なるほど、美しい音だ。

キンだのシャだのという擬音を使うのが阿呆らしくなる。

 

リィン。

 

鈴の音に似た音と、確かな痕跡が壁に刻まれる。

これは刃の揺れる音か?

だろうな。木造とコンクリートの狭間にあるような壁がこんな音を鳴らすとは思えん。

本物の剣を撃ち合ったら、どんなに素晴らしい音が聴けるだろうか。

生憎と現世においてそれが叶うことはないだろうが。

 

乱世においても無駄であろう。

殺人のための器具であり、決して音を奏でるものではない。

刀匠はどのような気鬱で剣を打ったのだろうか。

優れた剣を造る。この点では共通だろう。

だが、『優れた音を奏でる剣』を目指した刀匠がいたとは考えにくい。

一本の物語を書けそうではあるが、残念ながらテーマがない。

 

剣に音を求めて鎚を振るう刀匠と、想いを同じくする剣士の出会い。

薄いな。

 

 

家を斬った。

家は親の財産であり、宝でもあり、また己の一部とも言えよう。

ゆえに今日この日この瞬間。我輩は我輩に肉を与えた親とやらを斬ったのだ。

 

別になんらどうという感情も湧いてこなかった。

刀剣から響き渡る音に酔い痴れた。たったそれだけだった。

やはりこの世界に我輩の居場所はない気がする。

 

死という概念はなく、幾たびもの死闘を演じることができる世界にこそ我が身を置くべきなのではないだろうか。

 

言われるまでもなく、『我輩は人間ではない』。

成人の儀を拒否し、人間ではない『何か』に成ろうとした時点でそれは明白な事実なのだ。

 

何度か言われたことがある。

『お前は人間じゃない』まったくを以てその通りだが、貴様等はなにを言っているのだ。

『そういうお前達は実に人間であるな』とでも言い返して欲しかったのだろうか。

人間とやらは本当に理解しがたい。

 

 

ふむ。

あやつらはまだ人の世とやらに干渉しようと頑張っているようであるが、我輩に在っては最早どうでもよい。

 

必要となればまた我輩を呼べ。

名などどうでもよいであろう。然るに人間とやらがもたらした概念に当てはめるのであらば、そうさな……

『深淵の怪物』

とでも呼称するがよい。

なかなかに才覚のある人間も居ったものよな。

 

深淵を見つめるとき、深淵もまたお前を見詰めているのだから、か。

くっくっく。

実に愉快だ。いっそこの世のすべてが深淵に近しい位置に転ずれば、我輩も少しは愉しめるというものよ。

 

 

精々と足掻くがいい、半端者よ。

我輩はいつでも傍におるぞ。

 

 

………。

 

魂ってなんだろうな。

命については大体のところの見当はついているんだけどさ。

 

命をこいつと共有している自覚はある。

けれど、魂が同じかと言うと……違う気がする。

生まれてから齢五年ほどまで俺は聖人だった。

 

生まれる場所が場所ならば、そういった教育を受けて最終的にはそういった役職に就き、この世界に平和と慈愛と秩序を与えていたと思う。

 

その後、人間の世に絶望した。

それからしばらくして、こいつが発生したような気がする。

聖人が堕ちた結果として、何かが起こってしまったのだろう。

 

深淵の怪物。 

獰猛というにはあまりに冷静で淡々としている。

かといってやること為すことは人間的価値観からいって残虐非道そのもの。

ただしその行動には理念があり、またそうするだけの罪が対象に在る。

 

こいつは統合していない――いや、できていない人格である。

魂の在り方に理解できない箇所が多すぎるからなのかもしれない。

 

実世界でこいつの顕現する日が訪れないことを、願う。

 

 

邪魔が入ったが、臨書を続ける。

こうして『深淵の怪物』を文章にしてみると、拒絶感などないことが不思議だなあ。

自分の一部であることは疑いようのない事実なんだろう。 

やれやれ奇怪な存在というなら自分を真っ先に提示するよ。

 

 

 一旦休憩。

 

斬撃痕を見ると、面白い現象に気付いた。

ソードアート・オンラインですら大雑把だったりするのかもしれない。

 

牽制のために浅く裂くように薙ぐ。

乱暴に力のまま斬り下ろす。

剣と一体となって振り下ろされた斬撃は、深々と壮絶な破壊力を物語っている。

斬り上げの斬撃は剣や刀と呼ぶにはあまりに拙い。カッターでも再現できそうなほど浅くて適当な軌跡。

 

うーん、いろいろあるぞ。

 

ひとつ言えるのは……、俺は左利きの可能性が高い。

いや右利きのはずだよ?

でも、左斜め上からの斬り下ろしが二撃あったんだけど、両方ともぞくりとするほど『深い』んだ。

右から左に向かった斬撃を60と数値化するなら、左から右に向かった斬撃の威力は100から120に達する。

 

どういうこっちゃ。

好奇心がうずくなあ。でもこれを外でやると銃刀法違反と器物損壊になるから試せないんだよね。

 

貴重な経験と資料だから、高解像度のデジカメにも収めておいた。

 

 

さて臨書の続きつづき。

 

む。

身に纏う(まとう)。を多用していた文章が身に付けるに変化している。

使い分けているのだろうか。

 

頷く。

ルビを振る場合と、振らない場合がある。

なにか独自のルールを設けた?

 

 

旅は続く。